後楽園球場で行われているナイター。
ライトスタンドのシートに僕は座っていた。
ジャイアンツ対ホエールズ戦。
僕はホエールズファンだったのにもかかわらずライトスタンドに座っていたのは、この席を取ってくれた父親の都合であろう。
今になって思うと、会社の営業用シートを取ってくれたのではないかと思う。
シピンが振り抜いたバットは快音を響かせ、打球はレフト線いっぱいのヒットになった。
その瞬間、僕は小説を書こうと思った。
これは嘘です。
僕が後楽園で野球を観るとき、なぜだかいつもジャイアンツが勝ち、なぜだか王選手がホームランを打った。
多分この試合もジャイアンツが勝っていたのだろうし、王選手がホームランを打つのだろう。
僕の左後ろの席で、「ここは打たれるね」とか「盗塁する」と話しているおじさんがいた。
優しいしゃべり方で隣の人に話しかけているのだが、おじさんの言うことはずばずば当たるのだった。
いったい誰だろうか。
水道橋駅に向かうとき、父が「後ろにいたのは関根さんだ」と教えてくれた。
関根潤三さんはその後ホエールズの監督になった。
残念ながら優勝できなかった。
ニッポン放送ショーアップナイターの解説では、実に当たり前のことしか言わないおじいさんになっていた。
だけど、僕は知っていた。
この人は本当は何でも知っているのだ、ということを。