「やけに競馬に詳しい男が、仲間にいる」といわれていたのは日刊競馬の柏木集保さんです。
私にとって、そんな存在のひとりが柏手重宝(かしわでちょうほう)さんです。
柏手さんは競馬サイトnet.keiba.comで「根多のデットーリ」というコラムを持っています。
私がこのコラムを読み始めたのは3年くらい前から。
柏手さんの予想スタンスは、騎手と過去のレース傾向、予想オッズを中心とするものです。
驚くような馬券を取ったりすることもあるし、すかーっと外したりすることもある。
例えば2016年のエリザベス女王杯で、人気薄のクリストフ・ルメール騎乗のシングウィズジョイという馬をちょっとばかり推していました。
そしたら、シングウィズジョイが2着に来て的中!
当てたり外したりするのはどの予想家でも同じですが、柏手さんの文章がよい。
そもそも競馬コラムとしては比較的長い文章ですが、それはああでもない、こうでもない、こうかな?いや違うかも、とゆらゆら悩みながら予想を組み立てていく様子が書かれているからです。
私にとっての競馬の楽しみのひとつは、予想するプロセスにあります(もちろん、馬券が当たるのが一番楽しいのはないしょです)。
人気、騎手、馬場、調教師、オーナー、持ち時計、血統、語呂合わせ、サイン、調教……さまざまなファクターが競馬を取り巻いています。
それを好き勝手に組み合わせながら、どの馬が最初にゴールし、どの馬が負けるのか、ということを予想するという作業は、いわば物語を作ること(あるいは「妄想」すること)ともいえます。
新聞などで目にする競馬予想家の多くは当然「物語」を提示しますが、柏手さんの文章は物語を紡ぐプロセス自体を記述する、いわば「メタ物語」です。
だから「根多のデットーリ」を読んでいると、自分が予想をしているような錯覚におちいることがあり、その結果、知らず知らずの間に、その独自の予想方法にかなり影響を受けてしまいました。
「ナイガシロ」とかね。
毎週木曜日の昼前、私はたいていの場合、早めの食事をして、本を読んでいます。
そして正午になると本を読むのをやめてipadを取り出し「根多のデットーリ」を読む。
この時間がこのコラムの更新の時間なのです。
他のコラムはたまに休載になったり公開遅延になったりすることがありますが、私の知る限り「根多のデットーリ」は遅延したことがありません
でしたが、
「今週の本コラムは都合により休載します」とのお知らせ。
がっかりすると同時に、めずらしいなあ、と思いました。
柏手さんが亡くなったという知らせがありました。
柏手さんの顔はコラムタイトルの似顔絵しか見たことがない。
年齢が私と近いことくらいしかわかりません。
だけど、私にとって柏手さんは「やけに競馬に詳しい」仲間のひとりだったなあ、と思うのです。
木曜日の日課がひとつ、なくなりました。