あるコーヒーチェーン系の店に入った。
妙齢の女性がレジカウンターにいる店と認識していたのだが、今回は私よりもはるかに年長の男性が対応してくれた。
おそらく会社をリタイアしたくらいの年齢。
妙齢の女性じゃなかったからといって、がっかりしたわけではない(と、強調しておきたい)。
コーヒーを頼んだ。
男性は落ち着いた感じでオーダーを受けた。
特段問題もなく、スムーズに会計が終わり、コーヒーを受け取って席に座った。
レジカウンター付近の席が空いていたので席を取り、ipadを取り出してkindleを読みながらコーヒーを飲みはじめた。
しばらくすると、別の男性(おそらく店長)が私の応対をした店員に声をかけた。
「さっき○○○(聞き取れず)を失敗したって、どれくらい失敗したんですか?」
「○○○の量をまちがえてしまい最初からやり直したんです」
「あのですね」と店長は少し声を荒げた。
「私は○○○については何度も説明したんです。どうして何度もまちがえるんです?」
「もうしわけございません」
店長は店員より明らかに年下である。
店長の追及は緩まない。
「もっと自信持ってくれないと困りますよ。私はすべて教えたんですから」
「もうしわけございません」
お客さんが何人かまとまって入ってきた。
店員は、やはり落ち着いた感じで接客をこなした。
一段落したあとで、店長が店員に言った。
「さっき、お客さんに×××(聞き取れず)をいくついるかと訊いていたけど、おかしいと思いません?」
返事なし。
「おかしいですよね。だって足らないよりは人数分をお出ししておけば△△△(聞き取れず)なわけじゃないですか?」
(実際のところ、この辺のやり取りの内容は詳しく聞いていないのでよくわからないのですが)。
「もうしわけありません」
「お客さんの立場でものを考えればわかりますよね?」
「もうしわけありません」
「相手の立場で考えればわかることばかりじゃないですか?」
「もうしわけあ」
「うるせえ!」
と思ったので、ノイズキャンセリングヘッドフォンを装着した。
客に聞こえるようにダメ出しするな。
そもそもダメ出しするときにクイズ形式で「おかしいと思いませんか?」みたいな言い方するのは大嫌いなんだ。
単刀直入に言え。
もちろん相手が年上だからって、注意するのに遠慮する必要はまったくないよ。
ただ、こっちはゆっくりコーヒーを飲みに来ているのになんでこんなガミガミ言われるのを聴かされなくちゃならないんだ、といいたいんだよ。
たばこの煙くらい腹立たしいぞ。
だいたい言われているあんたも「もうしわけありません」しかないのか。
別の受け答えしろよ。
我が国では急速に高齢化社会が進んでいる。
またこの不確実な時代において、企業は経費を削減しなくてはならない。
したがって、比較的安い賃金で雇用できる高齢者がさまざまな業種に進出することになるのだ。
底の浅い分析。
昔は60歳を過ぎたら悠々自適だと思っていた。
父は60過ぎたら中国に行ってしまったし。
若冲なんて40前で隠居してる。
それに比べ、おれたちは辛いなあ。
そのうちおれも、若い人にあんな風にネチネチ言われるんだな。
ああああ、めんどくせえ。
30分くらい経ってだいぶ店も混んできた。
ヘッドフォンを外すと「もうしわけございません」という私より年長の店員の声が聞こえてきた。
そちらを見ると、彼は彼の孫ほどの年齢の女性店員に謝っているのだった。
私はipadをカバンに放り込み、店を出ることにした。