吉川浩満 山本貴光
エピクテトスって、誰?
世界大百科事典に当たってみた。
エピクテトス
Epiktētos
55ころ-135ころエピクテトス
ローマ期のギリシア人哲学者。古代ストア学派の哲学を伝える数少ない断片を残している。奴隷の子として成長したが,向学心があったため,主人は当時の有名なストア哲学者ムソニウス・ルフスMusonius Rufusのもとに弟子入りさせ,後に解放してやった。初めローマで哲学を講じていたが,86年ドミティアヌス帝の哲学者追放令によってギリシアのニコポリスに行き,そこで教団を開いて生涯を終えた。生涯,著作を書かなかったが,弟子のアリアヌスが師の言行を伝える《語録》と《箴言》を残している。それらがローマ皇帝マルクス・アウレリウスに与えた影響は甚大なものがある。彼はストア精神の源流に帰ろうとし,ソクラテスやシノペのディオゲネスの生き方を手本とした。人間が完全に自由に支配しうるのは自分の意志しかない。これは父なる神からの最善のたまものなのである。この意志を外的なものによってねじまげられてはならない。つねに自分のできることとできないことを弁別すべきであり,できないものを追求するところに,あらゆる不幸の原因がある。〈心にとめなければならない二つのことがある。一つは意志を離れては善いものも悪いものもないということ,二つはできごとを予期したり支配しようとしてはならず,理性によってそれを受けいれなければならないということである〉。この諦念に達したとき初めて,人は神の偉大さに気づき,その摂理に従うことによって,真の幸福にあずかることができる,とするのである。
[大沼 忠弘]
©Heibonsha Inc.
私はエピクテトスについて全く知らなかったけれど、この本は知識なしで読めます。
ほぼ吉川さんと山本さんのトークだけで完結しますから、とても読みやすい。
だけどとんでもなく役に立つ。
巷の自己啓発本なんかより、ずうっと分かりやすいのに悩みに効果があるという、すてきな本です。
吉川さんも山本さんも、エピクテトス先生に救われてきたそうです。
エピクテトス先生の考え方の最大のポイントは「権内」と「権外」。
「権内」は「自分の力でどうにかできること」。
「権外」は逆に「どうにもできないこと」。
そして、「権内か、権外か、あらゆる心像(心に浮かぶ像)にこの基準を当てがってみろ、そして権外のものであれば棄て去れ」とエピクテトス先生はいいます。
悩みといってもいろいろありますが、自分の力が及ばないことにぐじぐじ悩んでいても何も変わらないです。
しかしよくありがち。
心配性の私は、常日ごろからいろんなことに悩んでいますが、よくよく考えると考えてもどうにもないことばかり。
しかし、どっぷりはまるとそんな当たり前のことに気付かないときがあります。
つねに「権内」なのか「権外」なのかを考えておけば、確かに悩みの半分以上は考えなくてすむような気がしてきました。
いわゆる思考の「リソース」を重要なことに集中できるようになります。
しかし、この困難な状況下で、権内と権外はどう判断すべきなのか。
いやになって、すべてを「権外」として放り出すという選択肢も出てきそうです。
エピクテトス先生は、心像の適切な使用には訓練が必要だといっています。
エピクテトスはストア派の哲学者ですが、山本さんはこう言っています。
そういえば、ストア派の哲学者たちも、論理的に思考し(論理学)、正しく自然を認識したうえで(自然学)、よく生きる(倫理学)ことが大事だと言っていた。
ウイルスという野生がはびこるこういう時期こそ、このような人間にしかできない思考が有益だと思えます。