私はスーパーのレジで豚肉の小間切れ1パックを手に並んでいた。
帰ってから焼肉のタレで炒めて食べるつもりなのだ。
列が進んであと一人となったところで、前に並んでいた奥さま(年はたぶん私と同じくらいかな)が私に「(品物は)一つですか?」と訊くのだった。
「はあ」と答えたら、「お先にどうぞ」と奥さまは言う。
確かに奥さまは買い物かごいっぱいなのだが、私はそんなに急いでいるわけでもないので「いやいやいや」と固辞したのだが「どうぞどうぞどうぞどうぞ」と言われた。
話は少し変わるが、私は、飲んだあと先輩が支払いを済ませて、相応分の金額を先輩に払おうとしたら「今日はいいよ」と言われたので、「いやいやいや」と払おうとするが「いいからいいから」というのを店先でやるのは最小限の時間にしたいと思うタイプである。
なので観念して「ではすみません」と先に会計をさせてもらった。
実はこのシチュエーションについてはたまにシミュレーションをすることがあるのだった。
自分が前の奥さまの立場で、あとの人から「先に会計させてくれませんか」とお願いされるという状況を想像するのである。
「断る」のが結論である。
考えてみよう。
たとえば、私の後ろの人が豚肉の小間切れ1パックだとして、次の人がさんま一本で、その次の人がポッキー一箱で、その次の人が落花生一袋で……となっていたら原理的には永遠に私は会計ができないではないか。
額から流血しながら豚肉の小間切れ1パックを握りしめ「わたし死にそうなので先に会計してくれませんか」と言ってきても「なら豚肉買うなよ」と言ってやるつもりである。
というのは頭の中での屁理屈シミュレーションなのであって、実は私は順番を譲ってもらってうれしかったのである。
誰かがいい気分になったのだから、その行為はいいのだ。
ほんとうにありがとうございました。
だが、たぶんこれからも私は積極的に譲ってあげることはないだろうなあ。
コミュ障だから。
だけどがんばってみよう。