あとで母から聞いた話では、私の父は会社を定年退職した際、望めばそれなりの地位での再就職もできたようでした。
しかし父は、60歳でサラリーマンをすぱっと辞めてしまいました。
そのあと、中国語の学校に通い始めます。
中国に行って気功を習おう、というのでした。
いつからそんなことを思っていたのか。
少なくとも私は知りませんでした。
父は中国語をある程度習得したのち、上海へ渡りました。
2年ほど「体育学校」で気功の勉強をしていたのだそうです。
母や妹は現地に遊びに行ったようです。
留学を終えて帰国後、父は会社を作り、地元で気功教室を始めました。
教室が流行ることはなかった、と思います。
数年たったある日、父は腹痛を母に訴えました。
「腹筋運動しすぎた」と言ったらしいのですが、実際は胃がんでステージ4でした。
もう助かる見込みはなかったのですが、それでも先生と話をし、延命のために抗がん剤治療をしよう、ということになりました。
父も「そうしよう」とは言っていたのですが、入院中勝手に脱け出して、国内の気功の先生のところまでタクシーで行ったことがありました。
結局、がんが脳にも転移して、父は数ヶ月で亡くなりました。
葬儀のあと「気功の仲間」だという、父と同じ年くらいの男性が近寄ってきました。
そして、彼は私に言いました。
「抗がん剤なんか効くわけがないんだ。気功で治療を続けておけばよかったんだよ」
「そうですね」と私は答えました。
私が現在通っている整体の先生は、中国人女性です。
気功による治療もしてくれます。
実際の施術を受けると、「気」の存在及びそれを動かす術の存在を疑うことはできません。
実際、自分の体調がよくなった大きな要因のひとつが整体であることは間違いないところです。
気功なんて、腹立たしいのに。